雑記

静嘉堂文庫美術館

秋めいて来ましたな、気温はまだまだ一定ではないにしろ深まってきたこの季節、美味しいお酒と共に味わいたいものです。北海道では数十年ぶりの大雪に見舞われたようで、急な積雪による事故もあったよう、くれぐれもお気を付けください。

さて暇さえあれば美術館を覗きに行くのが商売の一部でもあり、また愉しみの一つでもあるのですが、先日は世田谷区岡本の静嘉堂文庫美術館に行ってまいりました。展覧会は「漆芸名品展-うるしで伝える美の世界-」を観るためであります。日本、中国、東南アジア(アジアと云っても茶道具として日本に請来されたものなのでとても限定的ではありますが・・)そして
朝鮮と各国の漆工品が展示されておりました。

漆器、漆工の世界は陶磁器に比較するともうひとつ地味なジャンルのように思います。好まれるファンの方の人口の多寡によるのでしょうが、そもそも日本は漆の国でありますからもっともっと注目してもいいものと思いますがね~。それでも茶道具や根来などの鑑賞美術などはすでにひとつのブランドのようになって高い評価を得ているものでありますが。

ここに展示されたものはもちろん評価が確立されたものばかりの立派な品々ですね。そのなかでもどちらかと云えば民藝的である朝鮮の漆器、自分などはこちらの方がしっくりとくるものですが、全体を見れば数は多くないもののなかなか粒よりのもの。特に唐物茶入の格に見合った宋~明くらいの盆などが展示されていたり、天目茶碗の台として作られたものが実際に茶碗とセットで設えられていたりと工夫が感じられます。この漆の類は草庵の侘茶の前、書院で行われた闘茶の際の棚飾り用なのでしょうね。まだまだ唐物崇拝の強い時代のものですから必然的に中国のものが多くなっています。

朝鮮漆芸はほんの数点ですが、螺鈿が主になっています。その文様は陶磁器にも表わされる素朴で力強い四君子など骨太なものです。

日本のものは硯箱、料紙箱、印籠、などバラエティに富んでいますが、特に興味深いのは徳川家康の命で、滅ぼされた豊臣氏の大阪城を探索し、所蔵していた名物の茶入などを掘り起こして(戦乱により当然バラバラに破壊されています)その破片を漆職人が高度な技術で修理したものが展示されている所でしょうか。詳細はウェブや実際の展覧会でご覧頂くとして、その茶入は一見無疵のように見えるすごい修理、でも実際は破片を漆で継いで表面を塗りやきものの質感を再現しているものです。こんな風に縄文の昔から装飾のみならず接着剤としても塗料としても活用されたもの、まさにこれを超える化学物質も見当たらないほどのスーパー素材であるうるしの事を我々はもっと注目していいと思います。
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静嘉堂文庫とは三菱財閥の総帥、岩崎弥之助、小弥太親子の収集した美術品が軸になっていますが、もともとは弥之助の漢学の素養から宋から明の貴重な唐物版本の購入から始まっていると聞き及びます。明治の人々の教養の深さ、掘り下げ方は現代の我々とは比較にならないほどのものがありますね。もちろん現代でも趣味人、教養人はいらっしゃるわけですが、このように形に残る目に見えるというものは、昔の税制度もしかり、しっかりとした帝王学があるからこそ出来たものでもあるのでしょう。人の上に立つものは富を貪るのではなく、我が身を律して施しを為すべきなのだという、論語などの哲学が垣間見えます。このようなことは今は到底望むべくもないことかもしれません。

さて展覧会を観た後はぐるっと庭園を散策、文庫の庭園自体はそれほど広くはありませんが、もともとこの緑地全体が岩崎家の庭、入り口から始まるそれはめっぽう広い気持ちのいい空間です。
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場所は東急二子玉川駅からバス、のんびり歩きたい人は住宅街を抜けてぶらぶらとするものいいんじゃないでしょうか。

展覧会]2016年11月6日