中世と云う時代、おもに平安末から室町時代頃までを指すことばと思いますが、貴族から武家の時代に移り、それとともに庶民の力も台頭して経済的にもダイナミックに動いていた時代でした。さまざまな産業もそれに呼応するかのように勃興していき、そのなかの重要な産業のひとつが陶業です。古代から連綿と受け継がれてきた各地の古窯もこの時代になると、いろんな需要に応えてじつにバラエティに富んだ製品を作っていきます。
滋賀県は信楽町でも数知れぬ製品が作られ、土質の良さと窯の焼成技術とが相まって、巧まざる見事な景色の大壺が焼かれてきました。各地の美術館でも盛んに展覧会が催されて、この信楽は古窯のなかでもダントツに人気の高い窯ではないでしょうか。その魅力は長石質に富む土、その白い胎土が荒々しい炎にあたり、茜色に変化し、薪の灰がビードロとなってかぶり美しい景色を形作っていったものと云うことになるでしょう。
今回、ホームページをリニューアルするにあたって、自分の商いのテーマのひとつである中世古窯、その代表格の信楽の大壺をこけら落としとして出品させて頂きました。肩のグッと張った力強い造形、そして紐作り成形の痕、木節粘土の木のチップが焼けてできる幾多の陥没穴、約束通りの室町時代の見事な壺です。そしていちばんの魅力は窯変でしょうか、巌のような肌にところどころ赤く火色が出て、枯れ侘びた地色とのコントラストが美しい景色を見せてくれています。肩には灰が降りかかって赤茶色い部分の上に黄胡麻のような景色を作っていますね、わずかですが緑色の自然釉のたれも見ることができます。
口縁部分は欠けたので擦り切っているようですが、使用に際して便利なようにわざと欠くこともありますし、これはこれで致し方ないところでしょうか。もっとも各コレクションの有名信楽にも口縁部のないものも多数ありますし、景色の魅力が補って余りある一品なのであまり不足感は感じません。
壺と云うと古くさいもののイメージを持たれるかたもいらっしゃるかもしれません、しかしこんな力をもった壺は現代の無機質な空間に置いてもすごい力を発揮してくれるもの、むしろその現代的な空間に置いてこそ現代の古窯鑑賞では美しく映えるものではないでしょうか。
高さ38センチ 胴径37.8センチ 室町時代
桐箱に収められています。
御売約ありがとうございます。