やきものほど派手な世界ではないかもしれませんが、それでもやはり日本はうるしの国、その多様な漆器の意匠、文様には目を見張るものが多々あります。そのなかで一部の特権階級の人々が使用した金銀を贅沢に使った豪奢な蒔絵の世界もまた素晴らしいものではありますが、吾々に馴染み深いのはこの素朴な漆絵ではないでしょうか。
産地の問題については研究がまだ追いつかず、いつも悩むところではあるのですが、こちらの椀、実は過去に一度扱ったことがありました。
今から16~17年ほど前に奈良の吉野でまとまって出たもののうちの一つ、状態は傷んでいるものも多かったようですが、その中で抜群のコンディションのこれも混じっていたようです。私の扱ったものはかなり傷んでいたのですが、別のお客様が手に入れたこれは出たばかりの時にタイミングよく手に入れられたのでしょうね。
その当時2002年1月号の雑誌「小さな蕾」で特集された古漆器特集、福生の杜の美術館の蔵品にスポットを当てています。主に東北の漆器が多いようですが、その他の地方のお品も参考出品されていて、この吉野椀が紹介されています。高台内の寺の文字、これも寺院伝来を窺わせます。寺院名まで表記しなくともこの時代、誰しも了解できる場所だったようです。
たっぷりとしたふくらみのある胴、見込みは弁柄漆で仕上げ、外側の花文様は朱で描かれていますね。朱は丹生が原料なので取れる場所が限られるとても貴重なもの、たっぷりと使用するわけにはいかなかったのでこのようにしたのでしょう。
絵柄の花文様は梅のようですがはっきりしません。木瓜の家紋のようにも見えるそれは巧みに意匠化されています。細かな花と枝は自由奔放に伸びていて、この絵付けも古格のある漆絵に時々見られるものです。
昨今、蔵からこうした民藝的な名品が出ることはほとんどなくなりました、今後はますますそうなるでしょう。今回のようにコレクターさんから出るチャンスを見逃さずどうぞお手許の愛蔵一品に加えて頂きたいと思います。
飯椀(いいまり)/口径12.9~13.4センチ 高さ 8.9センチ
羹椀(あつものまり)/口径12.1~12.7センチ 高さ 5.2センチ
引入合子(ひきいれごうす)/口径11.3~11.6センチ 高さ 3.7センチ
引入合子 小/口径11.0~11.2センチ 高さ 2.9センチ
江戸時代中期頃
いずれにも経年の使用擦れ、剥落、打痕などがありますが、この手のものとしては抜群のコンディションのものと思います。
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