こだわりの一品

店主による、選りすぐりの一品をご紹介いたします。茶碗、酒器、絵画、壺…様々なジャンルにわたり、こころ踊らせる品物をお届けいたします。また、掲載商品は購入可能です。

初期伊万里 徳利

初期伊万里の魅力を様々なものたちを通じてお伝えしてきたつもりなのですが、今回のこのお品にすべてのエッセンスが詰まっているのではないかと思っています。ご存知なかった方も含めて、口幅ったいようですが啓蒙活動としてもどうしても知って頂きたいと強く打ち出したく、ここ「こだわりの一品」の場でご紹介いたします。

初期伊万里の徳利自体は数多く作られ、世の中に目にする機会も多いのですが、これほど哀愁を帯びたはかなげな絵付けはもうどうしても無いのではないかと思います。ご覧頂ける通り口縁は欠損しているし、胴にニュウはあるし、おまけに頸部を焼き継ぎしているしで、満身創痍という感じかもしれません。

しかしその見事な絵付けの風情はすべての欠点を凌駕し、ご覧になっている古陶磁好きの方々の心根にストレートに響いてくるのではないでしょうか。いうなれば朝鮮陶磁の秋草手を思わせて、抱いて眠りたくなるような愛おしさを私なぞは感じてしまいます。釉薬も滑らかに融けた部分、貫入の入ったところに味が染み込んでいるところ、厚くきれいな青が垂れている変化などなどうれしい変化もあり素晴らしい景色になっています。おそらく優等生的に上がった釉薬でないところが面白いのでしょうね。

高台はやや碁笥底に近いような内側のみ削り込む造形、そして淡い呉須で表と裏の両方に風になびくようなしなやかな笹の葉を見事なバランスで配しています。この初期伊万里の時代には朝鮮ではまだ分院の時代ではなく、広州の一部の官窯的なところで染付が焼かれていた時代、したがってその絵付けも宮廷の画員が描いている場合が多いもの、ということはそんな格調の高い絵付けを心得た人が有田の地で絵付けをしたと考えてもいいのではないかと思っています。

今申し上げたことは単なる憶測ではあるのですが、そんなことを思わせるような屈託のない笹の葉が私の心にズドンと響いてきたことは確かです。

美術館に収蔵されていくようなものとは違うのでしょうけれど、座辺のバーチャル美術館にはこんなものこそ相応しいと思っていますし、またそんなところに同調してくださる方、お好きな方に貰われていって欲しいなと切に願っております。

高さ20.0センチ 胴径11.8センチ

江戸時代初期

胴や高台などにニュウ。高台内側には窯疵を埋めたところがあります。口縁部の欠損、そこからもニュウがありました。また入荷したときははだかの状態だったので、新しくきれいな木目の杉箱を誂えました。

御売約ありがとうございます。

過去の一品