みちのく紀行・その1
ついうっかりするとこのブログも更新がおろそかになってしまって、皆さんには飽きられてしまいそうですが、忘れた頃にまた更新しますのでどうぞ気が向いたら覗いてみてください。
うかうかしているのはいつもなんですが、今年もあとひと月、忙しさにかまけてなかなか、あれもしなきゃ、これもやらなきゃの仕事が片付かないですね。どうも面倒なことを後回しにしてしまうキリギリスタイプ、寒い冬に泣かないようにしたいもんです。
さてとりとめのない愚痴もどきはさておいて、冬のみちのく路に行ってきました。仕事自体はさっさと終わってさて余った時間はどうすべぇ~と思っていたところ、こういうときは美術館を覗くにかぎるということで、宮城県美術館で開催中の「洲之内徹と現代画廊 昭和を生きた目と精神」を観てきました。
洲之内さんは独自の視点で昭和という時代を駆け抜けた画商さんです。画商と呼ぶことに抵抗を感じざるを得ませんが、この人ほど「絵好き」を前面に打ち出した人はなかなかいないんじゃないかなと思います。まるで絵と運命を共にするというような、好きになったら命がけ、好きな絵を抱いて死んでも悔いはない的な強烈な人だったようです。彼の言葉に「その人にとっていい絵とはなにか、それはその絵が購うことが不可能ならば盗んででも欲しくなるような絵が本当だ」とあります。小説家を目指したこともあった州之内さんは「気まぐれ美術館」「絵の中の散歩」などの著作で存分に絵好きのエピソードを披露しています。強烈に好きを貫いた氏の言動や評論には賛否両論あったようですが、私個人は「あぁ~いいなぁ~、好きっていいなぁ~」と素直に賛成の諸手を挙げて著作を読んでいました。
洲之内さんが評価されるのは昭和という時代にとても重要な作家たちを取り上げていたからでしょうか、靉光や松本俊介、萬鉄五郎など多くの作家たちの展覧会を企画していました。私は今回の重要な出品作は海老原喜之助さんの「ポアソニエール」だと思っているのですが、この美しいブルーで彩られた優しげな女性に計り知れないほど癒されたことが
紹介されています。若き日に左翼運動に身を投じ、その後検挙、投獄、そして転向を強いられた挫折感に終生打ちのめされることになるのですが、その虚無感から救ってくれたのが美しい絵たち、とりわけこの作品であったようです。
今、ひりひりするような政治的な闘争の風というものはない時代です。しかしソフトな管理社会という、ある意味怖い面をもった時代に、もっと真摯に美を渇望し、救いを求めていくという人も多いのではないかとも思います。そんなときに洲之内流の美しいものに身を寄せていくことは、決して自分の仕事にも無関係ではないなと思っていますし、真剣にただただものを観つめる、見るだけでなく、そんなことが自分に課せられているようにも思います。
自分も絵好きから始まったこの仕事、もう一度原点に返るいい機会になったような気がします。
[旅行]2013年11月29日